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可換代数(Commutative Algebra)
序
基本事項
多項式環
イデアル
加群とテンソル積
局所化
ネーター環
整拡大
平坦性
次元
正則局所環
参考書

[ 序 ]
可換代数 とは 代数幾何の道具としての可換環論 の別名である。
以下、可換代数についてまとめることにする。
[ 基本事項 ]
集合 P 上の2項関係 ≦ は次の3条件を満たすとき 半順序とよばれる。
(P1) x ≦ x (反射律)
(P2) x ≦ y, y ≦ x ⇒ x = y (反対称律)
(P3) x ≦ y, y ≦ z ⇒ x ≦ z (推移律)
半順序 ≦ をもつ集合 P = (P, ≦) を 半順序集合(partially ordered set)または ポセット(poset)
または 順序集合 という。 P の2元 x, y は x≦y か y≦x のいずれかなとき
比較可能(comparable)とよばれる。どの2元も比較可能な半順序集合を
全順序集合(totally ordered set)という。
半順序集合 P は任意の全順序部分集合が P で上界をもつとき 帰納的順序集合 とよばれる。
以下では次の命題を承認することにする。
ツォルンの補題(Zorn's lemma) 帰納的順序集合は極大元をもつ。(⇔ 「選択公理」)
以下、環といったら(乗法)単位元 1 をもつ可換環とし、
環準同型は単位元を単位元にうつすものとする。
また、部分環は単位元を共有するものとする。
ゼロ元のみからなる環を 自明な環 または 零環 とよぶ。
<注> 環上の加群を考えるときなどは零環上は外して考えたほうが良い。
環 R の元は乗法に関して逆元をもつとき 単元(unit, 単数)もしくは 正則元 もしくは
可逆元 とよばれる。
環 R の単元全体の集合 U(R) は乗法に関して群をなし R の 単元群 もしくは 単数群
とよばれる。R× とも書く。
0 以外に零因子をもたない環 R を 整域(integral domain, domain)といい、
0 でない元が単元であるような整域 K を 体(field)という。
例 有理整数環 Z は整域。
以下、整域や体では 1≠0 であるものとする。
整域 R に対して R - {0} を R* で表示する。
体 K に対しては K* = K× となっている。
整域 R の非単元 a は a = bc (b, c ∈ R , b も c も非単元)と分解できないとき 既約元 とよばれる。
iB:A → B を環準同型とする。a∈A, b∈B に対して( iB で決まる)スカラー積 ab を
ab = iB(a)b
で定義すると B は A-加群となる。よって B は環と A 加群の両方の構造をもち、これらにおける
演算は両立している。この A 加群としての構造を合せ考えた環 B は A 代数(A-algebra)
とよばれる。
とくに A が 体 K で B ≠ 0 のときは iB は単射で K は iB(K) と同一視できるから、
K 代数とは K を部分環としてもつ環ということに他ならない。
A 代数間の環準同型 φ:B → C は φiB = iC であるとき A 代数準同型 という。
A 代数 B は有限個の B の要素 x1, ... , xn があって準同型 A[X1, ... ,Xn] → B , Xi├→ xi
が全射になるとき 有限生成 もしくは A 上で 有限型 とよばれる。
環準同型 f:A → B は B が f で決まる A 代数として有限生成であるとき 有限準同型 とよばれる。
このとき B は (f によって)有限 A 代数 とよぶ。
[ 多項式環 ]
不定元 X1, ... , Xn を変数とし環 R の元を係数とする多項式の全体 R[X1, ... , Xn]
は自然な加法と乗法で環となり、R 上の n 変数多項式環 とよばれる。
<注> 多項式の厳密な定義というのもあるが、とりあえず形式的な式として認めることにする。
定理 R が整域 ⇒ R[X1, ... , Xn] も整域 .
多項式 f = f(X1, ... , Xn) を
f = Σe1, ... , en≧0 ae1, ... , enX1e1 ... Xnen (*)
ei ( i=1, ... , n ) は非負整数
と有限和で表したとき係数 ae1, ... , en∈R は有限個を除いて 0 であるが、
ae1, ... , en≠0
となるような (e1, ... , en) についての e1 + ... + en の最大値を f の 次数(degree)
とよび deg f で表示する。ただし deg 0 は不定とする。
<注> deg 0 = - ∞ とする流儀もある。
(*) のカタチの多項式 f において、どの 0 でない係数 ae1, ... , en についても e1 + ... + en
が一定の整数 d であるとき、f を次数 d の 斉次多項式(homogeneous polynomial)という。
<注> 斉次多項式は 形式(form)とよばれることも多い。
k を体とすると k[X1, ... , Xn] の d 次斉次多項式全体は n+d-1Cd 次元の k ベクトル空間となる。
(∵ d 次単項式は n 個の変数から重複を許して d 個選び取る組合せの数 nHd だけあるから.)
定理 斉次多項式の積も斉次。また、R が整域のとき、積 fg が 0 でない斉次多項式であれば
f, g も斉次多項式。
定理 f, g∈R[X] で g(X) の最高次の係数が単元ならば R[X] の元 q(X) と r(X) で
f(X) = q(X)g(X) + r(X) , deg r < deg g
であるのが一意的に存在する。(除法の一意性)
系(剰余定理) f∈R[X], α∈R に対して
f(X) = q(X)(X - α) + f(α)
となる q(X)∈R[X] が一意的に存在する。特に、X - α が f を割り切る ⇔ f(α) = 0.
系 R が整域であれば、n 次多項式 f∈R[X] の根の個数は高々 n 個である。
多項式環 R[X1, ... , Xn] は R の埋め込み( = 包含写像 )により自然に R 代数となっている。
定理 S が R 代数,a = (a1, ... , an)∈Sn のとき、「代入写像」
φa:R[X1, ... , Xn] → S , f├→ f(a) = f(a1, ... , an)
は R 代数準同型。
S を R 代数とすると多項式 f∈R[X1, ... , Xn] は写像 f:Sn → S , a├→ f(a) を決める。
多項式からこのようにしてえられる関数を 多項式関数 という。
定理 S が無限整域で R が S の部分環のとき、f, g ∈R[X1, ... , Xn] が
多項式として異なれば f, g は多項式関数としても異なる。
例 α:R → S が単射でないとき、f - g の係数がすべて Kerα に属していれば多項式関数
として f と g は一致する。
例 R も S も有限体 k であるとき、多項式 Πa∈k (X - a) は k 上の関数として 0 と等しい。
[ イデアル ]
環 R の空でない部分集合 I は次の2条件をみたすときに R の イデアル(ideal)とよばれる。
(I1) a, b ∈ I ⇒ a + b ∈ I
(I2) a ∈ I, r ∈ R ⇒ ra ∈ I
<注> イデアルは加法に関して部分群になっている。(確かめよ)
正規部分群による剰余群と同様にしてイデアルによる 剰余環(residue ring) R/I
が自然に定義される。
<注> 剰余環を「商環」とよぶひともいるが後述の分数環を商環とよぶひともいて紛らわしくなる。
定理 標準的全射準同型 π:R → R/I に対して写像 J ├→ π-1(J) は
R/I のイデアル全体から I を含む R のイデアル全体への1:1対応。
環 R の部分集合 S に対して、 S を含むイデアル全部の交わりは S を含む最小のイデアルである。
このイデアルを S で 生成されるイデアル とよび (S) で表示する。
({a1, ... , an}) を (a1, ... , an) , ({aλ| λ∈Λ}) を (aλ)λ∈Λ と書く。
(a1, ... , an) = {Σi=1n aixi| xi ∈ A (1≦i≦n) } , (aλ)λ∈Λ = {Σλ∈Λ aλxλ| xλ ∈ A }
である。(但し、右辺で xλ のうち 0 でないのは有限個であることに注意。)
I = (a1, ... , an) のとき、I は a1, ... , an で生成される 有限生成イデアル とよばれる。
環 R の2つのイデアル a, b に対して次のような演算が定義できる。
和 a + b = { a + b | a∈a, b∈b }
積 a b = { a b | a∈a, b∈b } で生成されるイデアル
イデアル商 a:b = { x ∈ R | xb ⊂ a}
<注> たとえば a はドイツ文字「アー」のつもりである。
環 R のイデアル a, b, b' に対して次が成り立つ。
(@) a b ⊂ a ∩ b
(A) a ⊂ a:b
(B) b ⊃ b' ⇒ a:b ⊂ a:b'
(C) (b ∩ b'):a = (b:a) ∩ (b':a)
群の準同型定理、同型定理は環に対しても部分群を部分環、正規部分群をイデアルと
読み直すことでほぼそのまま成立する。
単位元を必ずしも持たない環を 広義の環 とよべば、広義の環に対しては、
部分環も広義のにして、そのまま成立する。
環 R の真部分イデアル P について
a, b ∈ R, ab ∈ P ⇒ a ∈ P または b ∈ P
が成り立つとき P を R の 素イデアル(prime ideal)という。
R の素イデアル全体の集合を Spec R と書き R の スペクトル(spectrum)とよぶ。
環 R の部分集合 S は次の3条件を満たすとき 積閉集合(multiplicatively closed set)
とよばれる。
(M1) x, y ∈ S ⇒ xy ∈ S
(M2) 1 ∈ S
(M3) 0 ∈ R - S
定理 環 R の真部分イデアル P に関する次の4つの条件は同値である。
(1) P は素イデアル
(2) R - P は積閉集合
(3) R/P は整域
(4) R のイデアル I, J に対し、 IJ ⊂ P ⇒ I ⊂ P または J ⊂ P
定理 f:B → A が環準同型, P が A の素イデアル ⇒ 「引き戻し」 f-1(P) も素イデアル.
定理 標準的全射準同型 π:R → R/I に対して引き戻し(写像)J ├→ π-1(J) は
R/I の素イデアル全体から I を含む R の素イデアル全体への1:1対応。
環 R の真部分イデアル m を真に含む R の真部分イデアルが存在しないとき
m を R の 極大イデアル(maximal ideal)という。
定理 環 R のイデアル m に対して次は同値である。
(1) m は極大イデアル
(2) R/m は体
系 極大イデアル ⇒ 素イデアル
次の定理はツォルンの補題により示される。
定理 環のどんな真部分イデアルに対してもそれを含む極大イデアルが存在する。
系 どんな自明でない環も極大イデアルをもつ。
上記の定理を拡張すると次。(たとえば下記の Rad(a) = ∩{ p| a ⊂ p, p は素イデアル }
を示すのに使える。)
定理 環 R の真部分集合 E およびそれと交わらないイデアル I に対して I を含み E
と交わらないイデアルの中に極大なのが存在する。
環 R のひとつの元により生成されるイデアルを 単項イデアル(principal ideal)という。
R のすべてのイデアルが単項イデアルであるとき R を 単項イデアル環 とよび、
更に整域でもあれば 単項イデアル整域(principal ideal domain, PID)という。
例 有理整数環 Z , 1 変数多項式環 K[X] は PID.
しかし 2 変数多項式環 K[X, Y] は PID ではない。(たとえば、イデアル (X,Y) は単項ではない)
定理 単項イデアル整域の (0) 以外の素イデアルは極大イデアルである。
これを精密化すると次。
定理 単項イデアル整域 R の 0 でない非単元 a について次は同値。
(1) a は既約
(2) イデアル (a) は素イデアル
(3) イデアル (a) は極大イデアル
環 R のイデアル a に対して a の 根基(radical) Rad(a) を
Rad(a) = { x∈R | xn∈a for some n∈N }
で定義する。√a とも書く。 Rad(a) も R のイデアルである。
とくに Rad((0)) を R の べき零根基(nilradical)とよぶ。
Rad(a) = a となるイデアル a を 根基イデアル もしくは 被約イデアル(reduced ideal)という。
例 素イデアル ⇒ 根基イデアル
● Rad(Rad(a)) = Rad(a), Rad(a∩b) = Rad(a)∩Rad(b)
系 a, b 根基イデアル ⇒ a∩b も根基イデアル
定理 環 R のイデアル a に対し、Rad(a) = ∩{ p| a ⊂ p, p は素イデアル }.
とくに Rad((0)) = ∩Spec R である。
環 R の真部分イデアル q について
a, b ∈ R, ab ∈ q, a ∈ R - q ⇒ ∃n ∈ N , bn ∈ q
が成り立つとき q を R の 準素イデアル(primary ideal)という。
例 素イデアル ⇒ 準素イデアル。
定理 R の 準素イデアル q に対して Rad(q) は q を含む最小の素イデアルである。
素イデアル p と準素イデアル q について p = Rad(q) のとき
q を p に属する準素イデアル または p-準素イデアル という。
定理
(1) q1, q2 が p-準素 ⇒ q1 ∩ q2 も p-準素
(2) 環 R の p-準素イデアル q に対して、c ∈ R - q ⇒ q:(c) も p-準素
極大イデアルがただひとつしかない環を 局所環(local ring)という。
局所環 R の極大イデアル M としたとき剰余環 R/M を R の 剰余体(residue field)という。
定理 環 R に対して次は同値である。
(1) R は局所環
(2) R の非単元全体 R - R× はイデアル
<証明> R が自明な環であれば (1) も (2) も成り立たないから (1) と (2) は同値である。
よって R は自明でない環とする。
(1)⇒(2) M をただひとつの極大イデアルとする。M は単元を含まない。
非単元 a に対して (a) は真部分イデアルでそれを含む極大イデアルが存在し (a) ⊂ M となる。
よって M は非単元の全体となり (2) をえる。
(2)⇒(1) 仮定から R - R× は真部分イデアルである。
R が自明でないことから極大イデアルが存在するのでそのうちのひとつを M とする。
M は単元を含まないから M ⊂ R - R×. ∴ M = R - R×. //
例 形式的べき級数環 K[[X]] = { a0 + a1X + a2X2 + ...| ai ∈ K } は局所環。
極大イデアルは X K[[X]].
環の直積は自然に定義される。
定理(中国式剰余定理(Chinese remainder theorem)) 環 A のイデアル I1, ... , In (n≧2)
がどの2つの i, j についても Ii + Ij = A ⇒ A/∩k=1n Ik 〜 A/I1 × ... × A/In
系 m1, ... , mn をどの2つも互いに素な整数とするとき、任意の整数
a1, ... , an
に対して次の連立合同式は(整数)解をもつ。
x ≡ a1 (mod m1)
x ≡ a2 (mod m2)
・・・・・・・・・
x ≡ an (mod mn)
また、解は M = m1m2 ... mn を法として合同である。
(∵) 解の存在は全射性から、合同での一意性は単射性からいえる。 //
<注> 中国式剰余定理といったら系のほうを指すこともある。
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